順天堂大学大学院医学研究科

放射線医学

教授

村上康二(S61)

 

 

 

 今回千葉大学の同門である順天堂大学斎藤光江先生、東京ゐのはな会勤務医部会長島田英昭先生から推挙され(むちゃ振りされ?)、投稿をさせていただく事になりました。以前に在籍していた慶應義塾大学の頃から東京ゐのはな会には何回か参加をさせて頂いたので、お見知りおきの先生がいらっしゃるかもしれませんが、改めて宜しくお願い申し上げます。

 

 自己紹介は前回のゐのはな同窓会報に掲載致しましたので、今回は私の専門である画像診断について現況と将来展望を書かせて頂きます。

 

 大多数の放射線科医はCTMRIの読影を中心にして、さらにサブスペシャリティーとしてIVRや核医学を分担しています。まずは私の専門である核医学の最新情報です。

 

 核医学のトレンドはなんと言ってもPETです。従来からあるSPECTは今後新薬の開発の計画がなく、また機械の開発もほとんど行われていません。対してPETは新薬が次々と現れ、検出器も最新型では半導体が使われています。新薬の代表としてアミロイドPETの画像を提示致します(図)。右側のアルツハイマー病(AD)の患者は全体的に集積が強く、アミロイドが脳に沈着していることを表します。被験者の第一号は自分がやる事も出来たのですが、勇気が無くて断念致しました。早ければ来年にも一部の認知症に保険が適用されるかもしれません。この他にも前立腺癌に特異度の高い18F-FACBC68Ga-PSMAも近い将来に必ず臨床応用される薬剤です。さらに心臓の分野でも、欧米ではSPECTよりもずっと高画質で定量性に優れる薬剤が使用されており、これらはいずれも数年以内に国内で治験が開始される予定です。

 

 

 CTはある程度技術的には成熟しており、既に画質やスピードは限界に来ています。現在の動向は主としてソフトウェアの改良であり、操作性の改善、低線量化、被曝量を一括管理するデータベース化などが話題です。

 

 MRIも画期的な変化はありませんが、トレンドは従来の「形態画像」から「機能画像」へのシフトです。新しい解析法により神経領域では脳血流の定量的解析や神経線維の方向を解析する事が可能となり、心臓領域では冠動脈の有意狭窄や心筋血流評価、シネMRIによる心機能評価などが可能になっています。これらの非侵襲的な診断法の登場により診断目的の脳・心カテーテル検査を減らす事が出来、最近のカテーテル検査は主として治療目的になっています。ハードウェアとしては、静粛性の増した装置が開発されました。従来のMRIは音が大きく、特に小児の検査では大きな欠点でした。静かな撮影が可能になり、より患者さんに優しい検査法に近づいたものといえます。

 

 最後の話題はAI(Artificial Intelligent;人工知能)です。昨年には人間が有利と思われていた囲碁の世界でもついにAIがトッププロを凌駕したことは記憶に新しいと思います。GoogleIBMが次にAIの応用を考えている分野は医療であり、中でも病理と放射線診断は最も応用が早く普及する分野のひとつと考えられています。すでに米国では大規模な画像のデータベース化が進行中であり、日本でも日本人を母集団とする画像データベースの構築が進行しています。数年先には人間とAIの診断能の比較といった研究結果が発表されるでしょう。AIが画像診断医の職を奪うのではないかという危惧も一部であるようですが、現在の最も妥当な考えとして、「AIは最適な結果を出すであろうが、それを患者の最大限の利益に結びつけるのは画像診断医であり、そのためにも他診療科医師とのコミュニケーションが今以上に必要になる」というものです。またAIには統計的な有意差を発見することは得意ですが、その理由付け、すなわち「なぜそのような所見になったか」という意味を説明することは不得手と言われています。この辺りの解明にはまだまだ画像診断医の活躍する場があるものと思われます。

 

 以上、雑多な内容となってしまいましたが、画像診断は多くの診療科の先生とつながりを持つ分野です。今後とも宜しくご指導・ご鞭撻の程お願い申し上げます。